通常の土を使った栽培方法(土耕栽培)とハイドロカルチャーなど土を使わない栽培方法(水耕栽培)では根っこが違うので、土耕から水耕、もしくは水耕から土耕に植え替える際に植物にダメージがあるとよく聞きます。福樹園では土からハイドロに植え替えることもありますが、その際の感覚としても正しく感じます。
このあたりの根に関する原理が気になったので、調べた内容を備忘録として書いていきたいと思います。
根は環境に合わせて成長する
水耕栽培か土耕栽培に限らず、土壌の環境(培地の組成、種類、水分量など)によって根っこの発達状態が変わります。例えば土壌で育つ植物は根の長さや二次根、三次根の発達の度合いが大きくなり、根毛を出すなどして根の表面積を増やすことで水分を効率よく吸収できるようにします。それに水耕植物だと水分の吸収が簡単なため、二次根、三次根の発達度合いが小さくなるなどです。
植物の種類による根っこの違いは当然あるのですが、同じ種類の植物でも土壌の環境の違いによっても同じような変化が出てくるそうです。つまり、土耕栽培から水耕栽培に移し替えた時、土用の根っこだから水中では機能しないわけではなく、単純に水中に最適化されていないだけだということですね。
ハイドロカルチャーが鉢の容量が少なくても育つ理由
観葉植物を土で栽培すると、地上部が成長するにつれ、いずれ鉢の中で根詰まりを起こしてしまいます。ハイドロカルチャー(水耕栽培)でも同じかと思いきや、土と比べて小さい鉢でも問題なく成長することが過去の事例で分かっています。これはおそらく、水耕栽培の方が吸水、養分摂取が簡単で効率的なので、土耕栽培と比べて小さい容積でも十分なのだと思います。
ただし、ハイドロカルチャー(水耕栽培)でも水を貯めっぱなしの方法と、土ものと同じように鉢下から排水させる方法とあり、前者は酸素の供給や水の腐敗の防止なども考えないといけません。ハイドロカルチャー(水耕栽培)であれば問題なし!というわけでもないのですね。
根腐れの原因
植物が育つ土の中には通常気層があり、根は接している空気から直接酸素を取込みます。これが水を貯めて根が浸かっている状態になると、空気から必要な量の酸素を吸収できなくなります。もちろん、水の中にも酸素は存在していて根はその酸素を吸収することができます。しかし、空気中から酸素を吸収するのと比べて効率が圧倒的に落ちます。そのため、植物の種類によっては根っこが完全に水に浸かっていると枯れてしまいます。
もう一つ、水を替えずに貯めっぱなしにしておくと、水中でバクテリアや微生物が増殖し、酸素を消費していまい、より酸素が欠乏した状態になり、根に必要な酸素が取り込めなくなります。定期的に水を変えるのは、水中の酸素量をリセットする意味でも、細菌を増やさない意味でも有効だということですね。
どちらの場合も、根が必要としている酸素が吸収出来ないことが原因となります。
原理が分かると対処がしやすい
植物の動きを生理学の点から見ていくと理解が深まります。少し前にこのようなニュースがありました。
根の成長が抑制されるのは、圧縮土壌中で物理的に成長できないのが原因ではないという。むしろ、エチレン(根の組織で作られる気体の植物ホルモン)の蓄積によって、根の成長が著しく妨げられることを著者らは実証した。
引用:AMERICAN ASSOCIATION FOR THE ADVANCEMENT OF SCIENCE (AAAS)
これによると、今までは硬い土壌では根が物理的に成長を抑制されていると思われていたが、そうではなく、硬い土壌ではエチレンガスが発散せず濃度が濃くなり、根の成長を阻害する何らかの反応が起きているのではないかという分析だそうです。
面白いですね。健康な根を育てることはあらゆる植物にとって重要なことです。これからは生産現場の視点だけでなく、科学的な視点でも植物の理解を深めていきたいと思います。